PRISM BioLab

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Platform Technology-4 開発パイプライン

開発パイプライン


1)PRI-724


現在、複数の疾患に対する臨床試験が進められているPRI-724は、PRISMのWnt/β-カテニンプロジェクトから生み出されました。Wnt/β-カテニン経路は、種々の細胞や組織でBMPなど他の多くの経路からのシグナルを集約すると共に、自身も他の重要な経路に関与しています。Wnt/β-カテニンシグナル伝達系の異常な活性化は様々な腫瘍細胞で見られ、これが腫瘍の増殖と転移の引き金となっています。このことから、がん治療薬を目指しWnt/β-カテニン経路の阻害剤の研究・開発が多数なされてきましたが、本経路を単純に遮断する薬剤は毒性が強く開発中止に至っています。Wnt/β-カテニンシグナルは細胞の増殖を促す一方、状況によっては、正反対の細胞の分化機能も担っています。このことが、本経路の単純な遮断が強い毒性に繋がっていると考えられました。PRISMの共同研究者は、本プロジェクトでこの細胞の増殖と分化のスイッチ機構の研究を行い、PRI-724のシード化合物ICG-001をライブラリーから得ることに成功しました。


シード化合物は、1次スクリーニングとしてTOPflash/FOPflash 評価系で判定された後、CBP制御下のsurvivin遺伝子の発現抑制とP300制御下のEphB2遺伝子の発現促進をみる2次スクリーニングによって選別されました(Emami KH et al. (2004) Proc Natl Acad Sci U S A 101:12682-12687)。この結果からも分かるように、シード化合物ICG-001は、転写コアクチベーターCBPに特異的に結合して細胞増殖を抑制する一方、フリーとなったβ-カテニンがP300と結合して細胞を分化に向かわせる遺伝子を作動させると考えられました(図1)。


図1:CBP/β-カテニン阻害剤PRI-724の作用機序


PRI-724は動物実験において、腫瘍細胞の増殖を抑える効果が実証されました。現在、エーザイと共同で、固形腫瘍、および、白血病の臨床試験を進めています。


また、Wnt/β-カテニンシグナル伝達系の異常な活性化は肝炎由来の肝硬変、特発性肺線維症(IPF) 、腎臓疾患、皮膚病、および眼病のような疾患における線維化の主要な要因としても知られています(Brack AS et al. (2007) Science 317:807-810)。現状では線維化を改善する方法は無く、その進行を遅らせることができるのみです。我々は、動物実験において、PRI-724が線維性結合組織を改善することを確認し、C型肝炎による肝硬変、特発性肺線維症 (IPF) 等の治療薬としての可能性を示すことができました。


2)NRSF/mSin3阻害化合物


わが国の精神病入院患者数は200万人以上にのぼり、その治療には薬物療法が中心的役割を果たしていますが、例えば既存の抗精神病薬は、50年以上前に開発されたクロルプロマジンからその標的分子は大きく変わることはありません。うつ病を始め精神疾患に対するより有効な治療薬が必要とされていますが、革新的な治療薬の開発は、未だ不成功です。


種々の創薬標的に対する治療薬の開発もなされていますが、‘複雑遺伝疾患’と考えられる精神疾患の発症にエピジェネティックな機序の関与が考えられることもあり、革新性のある薬剤の成功には至っておりません。


PRISMでは、精神疾患が‘複雑遺伝疾患’であり、また、エピジェネティックな異常によってもたらされるとの考えに立って、具体的作用標的として、多くの神経特異的遺伝子の転写調節を担う核内タンパク質NRSF(Neuron-Restrictive Silencer Factor)に着目しました。NRSFにより抑制される遺伝子の発現は、神経細胞の発生過程で解除されますが、この解除が適切でない場合は、精神的・神経的な異常症状をもたらすと考えられています。


神経細胞と非神経細胞ではNRSFによる制御が厳密にコントロールされていることから分かるように、その制御機構は複数あります。非神経細胞において、NRSFを転写抑制に働かせる機構の一つが、NRSFに特異的に結合する転写コリプレッサーSin3です。精神疾患のあるものでは、この抑制機構の解除が十分でなく、神経細胞が正常に機能しないため精神症状を呈すると考えられます。


共同研究者が、NRSF/Sin3の相互作用様式をNMRで決定し(Nomura M & Nishimura Y (2005) J Mol Biol 354:903–915)、NRSFのN末端部がSin3と結合するとき、重要な部分が短いα-ヘリックスであることを明らかにしました(図2)。PRISMでは、この知見を踏まえてNRSF/Sin3のタンパク質間相互作用を阻害/制御する化合物をデザイン・合成したところ、Sin3に結合するNRSF部を模倣して合成した化合物はNMR測定により、Sin3と結合することが確認されました。


図2:神経選択的転写制御因子NRSFとSin3の結合様式


本化合物の評価として、エピジェネティック疾患の観点からの動物疾患モデルとして、共同研究者が開発した線維筋痛症の動物モデルと考えられるマウスICS(Intermittent Cold Stress)モデルを選択して評価したところ、持続性のある疼痛緩和効果を示しました(Nishiyori M & Ueda H (2008) Mol Pain 4:52-57)。また、神経細胞のネットワークが関与すると考えられる別の動物モデルでも有効性が認められました。


転写因子NRSFによって制御されている遺伝子は約1,500もありますが、PRISM化合物はNRSFとコレプレッサーmSin3のPPIを阻害して、この1,500遺伝子の発現抑制を一律に解除しているわけではありません。1,500遺伝子にある各レプレッサーがNRSF/mSin3さらにはメチル化関連酵素やHDACなどの因子と複合体を形成して各遺伝子の発現を制御しています。レプレッサーのDNA配列は各遺伝子毎に微妙に異なっており複合体毎のNRSF/mSin3の結合面もそれぞれ微妙に異なっていると考えられます。現在、開発化合物の取得に向けた研究・開発と共に、PRISM化合物が1,500遺伝子の内のどの遺伝子の発現抑制を解除してin vivo薬理活性を現しているのか研究を進めています。


3)4E-BP1模倣化合物


膵臓がん、大腸がん等の難治性癌に有効な新薬が求められており、ドライバー遺伝子産物を標的としたキナーゼ阻害剤等の研究・開発が活発です。一方、がん抑制因子に焦点を当てた開発品は乏しいと云えます。


2013年に、米国NCIはがん治療の重要課題としてKRASが変異した難治性癌(膵臓がん90%;大腸がん44%;非小細胞肺がん30%)を標的にしたメガプロジェクト“The RAS project”を立ち上げています。ヒトの肺がんなどから変異したKRASがクローニングされて30年になりますが有効な薬剤の探索は模索が続いており、新たな分子標的治療薬が望まれています(Cox AD et al. (2014) Nat Rev Drug Discov 13:825-851)。


PRISMと共同研究者らは、RAS等のがんで活性化されているシグナル経路が、翻訳開始を制御するがん抑制因子4E-BP1に収束していることに注目しました(図3)。がん細胞では正常細胞に比べ、タンパク合成が“cap-dependent translation”に強く依存しています。4E-BP1は、この“cap-dependent translation”に働くinitiation factor eIF4Eの機能を抑制・制御していますが、膵臓がん細胞などの難治性がん細胞では、4E-BP1の変異・欠損が認められる例が多く見つかっています。PRISMと共同研究者らは、eIF4Eと4E-BP1ペプチド複合体立体構造の重ね合わせから、4E-BP1のeIF4E結合部位を模倣する低分子化合物が、難治性がんに対する有効な治療法の一つとなりえると考え、化合物のデザインと合成に着手しました。


図3:がん抑制タンパク質4E-BP1の機能


合成した化合物は、膵臓がん細胞株などの増殖を強く阻害し、移植マウスモデルでもがんの増殖を抑制しました。現在、開発化合物の取得に向けた研究・開発が進められています。